Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル・番外編

    “夏の手前の”
 



ここ日乃本では、夏本番を迎える前にひと月ほどの雨季がある。
丁度青梅を収穫する頃合いと重なることから梅雨と呼ばれるその長雨は、
後々の日本の産業の柱、稲作農業の要でもあるため、

 「降ってくれねば困るのは判るのだがな。」

そもそも、雨も晴れも大自然の仕立てる大いなる段取りなのであり、
人間の意思だの力だので望み通りに動かせるはずなどないのだが。
それでは困るとした善良な人々へ、
我こそは神の使いよ仏の声を聞くものよと、もっともらしい口上を述べ、
自分が祈念すれば天をも動かせようぞなどという、
それこそ天をも畏れぬ言いようをして。
何とも怪しい祈祷をして見せ、
願った通りになればよし、叶わなかったならならで、
巧妙珍妙な言い訳を紡いだり、何なら尻に帆かけて逃げ出すという、
詐欺まがいの陰陽師や祈祷師も古来より多数いたようで。

 「ちゃんとというのも何だがの、
  風の香りや空の色、雲の景色を読んでのこと、
  結構理屈にのっとった予見を立てて確かな予言を成した者もいて。
  そういう輩が起こした陰陽祈祷の一族も少なくはない。」

ドクダミの白とツユクサの青とが拮抗し合い、
ちょっぴり乾いた緑の敷き詰められた庭先で、
陣地争いをしているようなのを眺めつつ。
夏向きの単衣でももう暑いのか、
懐をゆったりとくつろげた、ややしどけない格好になり、
金髪金眸の陰陽師殿が、
濡れ縁へと庇が落す陰の下、
僅かばかりの風を待つよに板張りのお廊下へ坐しておいで。

 「前に話してくださったように、
  蒼穹の高いところで気団が押し合いへし合いしてのことなら、
  成程人の力ではどうにもなりませんものね。」

一応は、学問としての知識を授けられている書生くんが、
もっともだとコクコク頷いているけれど、

 “といいつつ、こやつはその昔、
  放置されてた原っぱを焼くことで気流を作り出し、
  ほんの一刻とはいえにわか雨を降らしたこともあるしなぁ。”

先ほど怪しい祈祷師の例に出した所業と同じく、
“我こそは稲荷神の使い、天狐の転変した者だ”と触れ込んで。
なかなか降らぬと困り果ててたその地の長者の屋敷へ赴き、
そのような仕掛けを仕立てて、
ほんの数刻ながらも実際に雨を降らせた実績を持つ
ご本人曰くのペテン師殿でもあると、
やや離れた辺りに腰を下ろして場を見守っておいでの蜥蜴の総帥様は
しっかと記憶していたりもし。

 『あんなもの、その場しのぎのお湿りだからな。』

たまたま湿度が高い状態だったのを嗅ぎ取り、
これはいけると悪知恵を動員してやらかして見せた手妻のようなものであり、
成功したし、人々を平伏させたにもかかわらず、
長居は無用と 大枚の祈祷料をせしめたそのまま
サッと姿を消した引き際も見事だったそうで。

 「…まさかと思うがああいうののしわ寄せが来てんのかねぇ。」

今や押しも押されもしない
宮中仕えの殿上人、神祇官補佐などという仰々しい身分となった陰陽師殿だが、
国事としてのお天気の占いとは別口、
どうか雨をもたらしたまえ、晴れをもたらしたまえという庶民からの訴えも、
一応は訊く耳を持たねばならず。
そこへ、日頃の行状から貴族たちに嫌われまくっている蛭魔へ、
ここぞとばかりに無理難題を吹っ掛ける暇人もいて。

 「…もしかして先の酒席での三綾部様の売り言葉を」
 「おうさ、買ってやったぜ。」

檜扇では足しにもならぬと、竹ひごの輪っぱに絹を張って柄をつけた簡易の団扇、
工部の知り合いの武蔵さんが届けてくださったのをはたはた扇ぎつつ、
しゃあしゃあと応じる相変わらず破天荒なお師匠様なのへ、

 「無理に決まってるじゃないですか。
  今の今、お天気というものは自然がもたらす大いなるものだから
  人がどうこう出来るはずがないって話を…」

なんて無茶をするものかとの驚きと叱咤を綯い交ぜにし、
道理を説こうとしかけたものの、

 「うにゃ?」
 「せーな?」

ひんやりする広間の板張りにコロンコロンと寝そべってた子ギツネ二人、
何だ何だと転寝から小さな頭をそれぞれに持ち上げたのが視野に入って、

 「うう〜〜〜。」

大騒ぎしたところで、このお師匠様が決めたことなら覆せはしないのだとか、
何かしらお考えあってのことだろうな、
いやいや待て待て
たまに大きく失敗しつつも別な理屈や大ぶろしきを持って来て
見事なんだか小ズルいのだか、
背中がこそばゆくなるような卑怯奇天烈な決着で畳んでしまわれることもあるしなぁ。
いつぞやも、それを持ち出されると一族の恥となるよなぼんくら息子の失態を
巧妙にも例えに絡ませて語られたお説へ 大権門の家長様を丸め込み、
座にいた全員へ納得を無理強いさせた顛末があったなぁ。
ああいうことされると、そこんちの下仕えから逆恨みされちゃうんだけどもなぁ…などと、
小さな胸の内にてグルンといろいろな想いを巡らせて、
はぁあと深いため息を一つついた瀬那くん。

 「それで? 進さんに何か調べてもらうこととかありますか?」

 「お、さすが察しがいいな。
  明日の山科の風向きと、一層目の雲の下、衣紋の湿りを測ってほしいのだ。」

今回はちゃんとした段取りを組んでの仕掛けをこなすつもりならしく、
そういや風の中、ずんと遠いところじゃあるが、
雷に通じる金気の匂いもしないじゃないしと、
瀬那くんもこの晴天にもかかわらず感じ取ってはいたようで。
さてさて、一体どんな大芝居を打つつもりの御師匠様か、
そして、上役様や今帝様はどこからこそりと見物なさるのか。(おいおい)
小さめの野百合が白い花を傾げ、ゆらんと揺れて呆れてござったそうな。






     〜Fine〜  16.06.18


 *いやはや、今日のK市は朝からいいお天気で朝から暑いです。
  今年は空梅雨か?
  雨降ってもそれはそれで鬱陶しいですが、
  プールだ素麺だという夏を控えてて水不足も困るよね。
  ゲリラ豪雨で帳尻合わせとかは無しですぜ?

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